身近なタスクでプログラミング思考を育む オフラインで楽しむ手順分解ゲーム
遊びながら育むプログラミング思考の基礎
プログラミングと聞くと、コンピューターや特別なツールが必要だと考えるかもしれません。しかし、プログラミングを学ぶ上で大切な「プログラミング思考」は、実は特別な知識がなくても、日常生活の中での遊びを通して育むことができます。プログラミング思考とは、物事を論理的に考え、複雑な問題を分解し、解決策を順序立てて考える力のことです。これは、コンピューターを動かすためだけでなく、日々の生活や様々な学習においても役立つ大切な能力です。
本記事では、ご家庭や地域の子どもたちの集まりなど、身近な場所で簡単に行える、オフラインでの「手順分解ゲーム」をご紹介します。特別な準備は必要なく、複数の子どもたちが協力して楽しめるため、気軽にプログラミング思考の入り口に触れることができます。
「手順分解ゲーム」とは
「手順分解ゲーム」は、ある一つのタスクや目標を達成するために必要な手順を、細かなステップに分解して考え、それを他の人に正確に伝える遊びです。これは、コンピューターに指示を与える「アルゴリズム」(問題を解決するための手順)を考えるプロセスに似ています。
例えば、「おにぎりを作る」というタスクを考えてみます。これをコンピューターに分かるように指示するためには、「まずお米を炊く」「海苔を用意する」「塩を用意する」「炊いたお米を適量手に取る」「塩を少々つける」「お米を握る」「海苔を巻く」など、一つ一つの具体的な動作に分解する必要があります。さらに、「お米を適量手に取る」はどのくらいの量か、「握る」はどのくらいの力で、どのような形にするか、といった詳細な指示が必要になることもあります。
このゲームでは、このような日常的なタスクをテーマに、子どもたちが協力してタスクを構成する「命令リスト」(プログラム)を作成し、別の人がその命令リストだけを見てタスクを実行することを目指します。
遊び方のステップ
このゲームに必要なのは、紙とペン、そしてテーマとなるタスクに関連するものだけです。例えば、積み木を使ったタスクであれば積み木、部屋の一角を片付けるタスクであればその場所、折り紙であれば折り紙と、日常にあるものを使用します。
- テーマ(タスク)を決める: みんなで相談して、今回挑戦するタスクを決めます。簡単な日常の動作や、短い作業が適しています。
- 例: 積み木で簡単な形を作る、特定の場所にあるものを指定された場所に移動させる、折り紙で鶴以外の簡単なものを折る、コップに水を注ぐ(量は指定)、など。
- タスクを小さな「命令」に分解する: 決めたタスクを、最も基本的な動作に分解します。誰にでも分かる、具体的で曖昧さのない命令にするのがポイントです。
- 例: 「積み木を一つ持つ」「右に30センチ動かす」「上に重ねる」「〇〇(色や形)の積み木を探す」
- 例: 「コップを持つ」「水道の蛇口をひねる」「コップを蛇口の下に置く」「水が指定の位置まで来たら蛇口を閉める」
- 命令リスト(プログラム)を作る: 分解した命令を、タスクを達成する順序通りに紙に書き出すか、カードに書いて並べます。これがタスクを実行するための「プログラム」になります。絵や簡単な記号を使っても良いでしょう。
- 他の人がプログラムを実行する: プログラムを作成した人以外の子どもが、「実行者」となり、作成された命令リストだけを見て、書かれている通りにタスクを実行します。作成者は口出しせず、見守ります。
- 結果を確認し、修正する(デバッグ): 実行者がタスクを終えたら、目標通りになっているか確認します。もし上手くいかなかった場合、命令リストのどこが間違っていたのか、どの命令が不十分だったのかをみんなで話し合い、修正します。この「間違いを見つけて修正する」ことが、プログラミングにおける「デバッグ」の考え方につながります。修正したら、再度実行者がプログラムを実行し、成功するまで繰り返します。
グループでの取り組み方とそこから生まれる学び
このゲームは、複数人のグループで行うことで、より多くの学びが得られます。
- 役割分担: 「タスクを決める人」「命令を考える人」「命令リストを書く人」「プログラムを実行する人」「結果を確認し修正点を考える人」など、役割を分担することで、一人ひとりが主体的に活動に参加できます。
- 協力とコミュニケーション: 一つのタスクを達成するために、アイデアを出し合い、話し合いながら進める過程で、自然と協力する姿勢やコミュニケーション能力が育まれます。特に、指示を出す側は相手に正確に伝わる言葉を選ぶ必要があり、指示を受ける側は指示を正確に理解しようと努めるため、コミュニケーションの質を高める練習になります。
- 他者の視点の理解: プログラムを作る側は実行者のことを考えて命令を作成し、実行する側は作成者の意図を読み取ろうとします。これにより、他者の視点に立って考える力が養われます。
- 共同での問題解決: うまくいかなかった時に、「なぜだろう」「どうすれば良いか」とみんなで考え、解決策を見つけ出すプロセスは、問題解決能力を育む貴重な経験となります。
この遊びが育む能力(教育的意義)
この「手順分解ゲーム」を通して、子どもたちは遊びながら以下のような大切な能力を育むことができます。
- 論理的思考力: 物事を順序立てて考え、因果関係を理解する力が養われます。
- 問題解決能力: 目標達成のために、課題を分解し、解決策を考え、実行し、評価・改善する一連のプロセスを学びます。
- 分解・抽象化の能力: 複雑なタスクを単純な命令に分解し、本質的な手順を取り出す考え方を身につけます。
- 正確な指示の能力: 曖昧さをなくし、具体的で明確な指示を作成する練習になります。
- 協調性: グループで協力し、共通の目標に向かって取り組む中で、チームワークの大切さを学びます。
- 粘り強さ: うまくいかなくても諦めずに、試行錯誤を繰り返す中で、粘り強く課題に取り組む姿勢が身につきます。
これらの能力は、プログラミングだけでなく、算数の文章問題、理科の実験手順、国語の物語構成、そして日々の生活の中での計画立てや実行など、あらゆる場面で役立つ基礎となります。
まとめ
「手順分解ゲーム」は、特別な道具や専門知識が一切不要で、すぐに始められるオフラインのプログラミング思考ゲームです。日常の身近なタスクをテーマにすることで、子どもたちは遊び感覚でプログラミングの基本的な考え方である「アルゴリズム」や「デバッグ」に触れることができます。
グループで取り組めば、協力することの大切さ、コミュニケーション能力、そして共同での問題解決能力も同時に育むことができます。プログラミング学習の第一歩として、また、子どもたちの論理的思考力や問題解決能力を育むための手軽で効果的な活動として、ぜひご家庭や地域の子どもたちの集まりに取り入れてみてはいかがでしょうか。子どもたちが楽しみながら、将来に役立つ大切な力を身につける機会となることを願っております。